「遊びでやってるんじゃないんです!」
ミーティングの場で大きな声が響いた。
人は呆れると黙るらしい。
あの日の私は、まさにそうだった。
そのビッグバンドは、市民参加型の企画として立ち上げたものだった。
当時、私が所属していた団体は地域で音楽イベントを開催していた。
地域を音楽で盛り上げる。
そういう目的を掲げた団体だった。
ただ、私には少し疑問があった。
演奏する側がやりたいことと、地域が求めていることは本当に同じなのだろうか。
そんなことを考えていた。
そこで提案したのが市民ビッグバンドだった。
上手い演奏を見せることが目的ではない。
地域の人たちが集まり、少しずつ上達し、その様子を地域の人たちに見てもらう。
言ってしまえば、私は完成品ではなく過程を見せたかった。
立ち上げ当初は苦労した。
人は集まらない。
金もない。
成功する保証もない。
特に金管楽器が集まらず、他団体の協力まで仰いでようやく形になった。
今思えば、一番静かだったのはこの頃だった。
意見も少ない。
口を出す人も少ない。
みんな忙しかったのだろう。
一年ほど活動を続けた頃、最初のライブを迎えた。
会場は満員になった。
予想以上の成功だった。
もちろん嬉しかった。
ただ、今思えば、その頃から少しずつ見ているものが変わり始めていたのかもしれない。
ある人は、自分たちが上手いから客が来たと思ったらしい。
私にはそうは思えなかった。
そもそも、そんなものを見たければもっと上手いバンドはいくらでもある。
少なくとも私には、お客さんは別のものを見に来ていたように思えた。
まだ完成していない人たちが、一生懸命に演奏している。
その姿を見に来ていたのだと思う。
成功すると状況が変わる。
バンドの立ち上げにはあまり興味がなかった人たちも、成功すると急に熱心になった。
もちろん悪いことではない。
誰だって完成した神輿の方が担ぎやすい。
ただ、不思議なことに、そういう人ほど組織の話が好きだった。
音楽の話ではなく、組織の話である。
誰が責任者なのか。
誰が決めるのか。
誰が上なのか。
そういった話題が増えていった。
また、成功すると専門家も増えるらしい。
立ち上げの頃には聞かなかった意見をよく耳にするようになった。
人間というのは経験を積んで成長する生き物である。
数ヶ月前まで興味を示していなかった案件についても、驚くほど詳しくなることがある。
やがて役職を作ろうという話になった。
バンマスとコンマスである。
私は反対した。
役職が嫌だったわけではない。
ただ、それが本質だとは思えなかった。
地域に音楽を増やす。
そのためにビッグバンドを作った。
私の中では順番がそうなっていた。
ところが周囲は違った。
ビッグバンドを続けること。
組織として大きくすること。
役職を整えること。
そういった話が中心になっていった。
もちろん、それらは必要なことだったのだろう。
ただ、私には少し不思議だった。
いつの間にか、目的だったはずのものが見えなくなっていたからだ。
そして、あのミーティングの日を迎える。
「遊びでやってるんじゃないんです!」
その言葉を聞いた時、私は何も言わなかった。
正直に言うと、今でもよく分からない。
私はあの日、遊びか本気かという話をしていたつもりはなかったからだ。
何を大切にするのか。
何のためにやっているのか。
その話をしていたつもりだった。
演奏が上手くなること。
組織を維持すること。
役職を作ること。
どれも大切なことだ。
ただ、それらは本来手段だった。
少なくとも私にとっては。
役職の話をしている人がいた。
組織の話をしている人がいた。
演奏の話をしている人がいた。
そして私は、最初の目的の話をしていた。
会話が噛み合うはずがない。
当時の私は理解できなかった。
今でも正直よく分からない。
ただ一つ、覚えていることはある。
あの時議論されていたものは、その後も何度か形を変えて繰り返されることになる。
地域の話ではなかったのだろう。
少なくとも私にはそう見えた。
地域に音楽を増やすために始めたはずなのに、気が付くと地域の話をしている人はほとんどいなかった。
しかし、自分たちが何をやりたいかは、みんなよく知っていた。
どうやら、地域が何を求めているかについては、あまり興味がなかったらしい。